阿Qゲノム

作/演出 桜井大造
2002年 10月 東京東小金井

阿Qは実在しているが世界の中で表現されない。
阿Qは「ヒトノゲム解析」によって析出されない。
阿Qは世界の対象とはならない。
阿Qは世界を表現しない。
阿Qは世界を解析しない。
阿Qは壊れた世界だけを対象とする。

阿Q型ピープルは、何事も忘れやすく現実容認的である。動物的でいわば「単純系」なので、社会システムのデータベースの一番下の階層に置かれている。数量ばかり多いが、システム理論の対象としては時に無視してかまわない項目だ。
 かって魯迅が無慈悲なほどに阿Q型ピープルを追いつめる物語を考案したとき、処刑される寸前の阿Qは彼の魂に噛みついているもう一つの阿Q型ピープルを発見する。
 魯迅の絶望的な希望は自立することのない阿Qが、もう一人の自立することのない阿Qの噛みつかれることで、恐怖感とともに自立することだったのだろうか。
 この自立は、主体的な個「1」への文学的希求ではないだろうか。
 だが、阿Q型ピープルにいこのような「1」という城塞を築くことができるだろうか。
 「0」という自己喪失の寸前に他者を発見することで「2」へと逆流する。数字的にいえば、彼は0から2の間で実数のどれかであり、しかし自然数では書き表すことのできない無理数の道ををさまよっている。
 阿Q型ピープルの絶望的希望は、むしろ「1」という城塞を築けないことにあるのではないか。それは「1」という牢獄も持たないということでもあるのだから。

集団名を「野戦の月=海筆子」と改め、約3年ぶりの新作公演。台湾から役者として許雅紅 段恵民を招き、木製ドームと従来のパイプ構造のテントを合体させた特設大テントでの上演。

役者・ばらちづこ つくしのりこ 森美音子 許雅紅(台湾) 段恵民(台湾) 伊井嗣晴 甲斐靖 桜井大造 根岸良一 鈴木哲広 リュウセイオー龍  
舞台監督・村重勇史
照明・池内文平 陳憶玲
音効・新井輝久
衣装・おかめ 田口ナヲ 中山智絵 寺田綾子
舞台美術・若佐ひろみ 長友裕子 中山幸雄  小林純子 水畑夏子
舞台・小夜子 浦崎直樹
制作・陳憶玲 光延晶子 村重勇史 押切珠喜 山内淳 古崎くるみ 
翻訳・字幕・林于竝 小野澤潤
通信・ 濱村篤
音楽・原田依幸 石渡明廣 望月英明 野崎正紀 堀切信志 島田正明(録音)