幻灯島、西へ

月下の野戦・第一弾
原作/ 野崎六助   
作・演出/ 桜井大造

1994年 8月  東京-立川・南千住・立川

いくたびかの浄化(クレンジグ)をへて
なお 街は とび散る血の噂を待ちうけていた 
千日の雨と 千頭の牛馬が 耕さねばならいほどに
すでにヒトは 乾涸らびた荒地なのに
配給されたのは コップ一杯の水だったのだ
動く必要があった

血のクレンジングを待ちわびる街路を抜けて
極東の街のさらに東のはてにある人工の島へ
拾いに行く必要があった あの幻灯(ゲットー)の島へ
陽画フイルムの中で朽ちてゆく 千態の野戦を-
“沈黙”こそが酸素である 

桜井大造

世界の激動”が街の喧噪に融けて踊れば踊るほど、天底にうずくまる者たちの“沈黙”は濃度を増してゆく。
 その存在さえ忘れさられるほどに、“沈黙”は頑として、暗闇の裏側にしなっていくのだ。だから暗闇は“沈黙”を吸気して、極限みまでその質量を高めてゆくだろう。
 “野戦”が開始されよう。それは、局面では抵抗であるが、全体世界を獲得する以外にないにという道筋においては、復元である。粒立つ濃密な暗闇は“沈黙”を酸素として、呼吸し、火を焚き、復元へと向かうはずだ。

 〈野戦の月〉は、今年3月末に解散した“風の旅団”のメンバーの一部を中心として結成された集団である。同様の成り立ちとしては、すでに〈独星火〉がある。
 ’94年夏・東京の3地点に立つ穹廬(テント)にて、お目にかかりたい。

西新宿の巨大な墓石    野崎六助

「東京都による野宿労働者の叩き出しを許さない!」4・10集会は、新宿駅西口のエルタワービルで貫行された。高層ビル街の駅側からの入り口に位置するビ ルの12Fのホールを借り切った集会はいかにも異様なコントラストをつくって、啓示的だった。高層ビルのいくつかはまがりなりにも開放されたものもあれ ば、一部企業ビルのように部外者を一歩もいれない厳重なガード体制をとっているものもある。この一帯から〈合法的〉に追放された労働者たちの集会がこうし たビルの一室を高価に借り切って貫徹された効果はなかなかの見物だった。会場からは眼下に百貨店や駅ビルの立ち並ぶ休日の喧騒をとらえることができた。あ るいは、死んでいるのはこのにぎわいの街を多忙にかけていく一般市民たちであるのか、それとも巨大な墓石のようなハイテクビルに一室で資本主義社会(エイリアン・ネイション)の断末魔に追い立てられることへの抗議を声にした野宿者たちであるのか。

野戦の月の前身となるのは、1982年10月から1994年3月まで活動した「風の旅団」である。

旗揚げ『幻灯島、西へ』。1994年8月東京3カ所で公演を行う。
「風 の旅団」元メンバーである桜井大造がプロデュース。桜井の呼びかけに応じて、元風の旅団の香乃カノ子、伊牟田耕児、清水浩一郎、根岸良一、鷺宮テル子、寺 川努、水畑功、森美音子に加え、ばらちづこ、舞踏家の岩名雅記、え~りじゅん、スリランカ人K・ロハンが役者として参加した。

原作には評論家でもある野崎六助を迎え、脚本・演出に桜井大造。
舞台監督・村重勇史、照明・ソライロヤ、音響・新井輝久、舞台美術/宣伝美術・元風の旅団の宮明夫が担当した。
音楽:大熊亘、桜井芳樹、関島岳郎、中尾勘二、久下惠生、西村卓也、さこ大介。