台灣海筆子 帳篷戲劇「變幻 痂殼城」

公演日 2007年4月 13日(金), 14日(土), 15日(日)
18日(水), 19日(木), 20日(金), 21日(土)

全日 午後7時半開演
公演場所 台北市中正區同安街109巷 紀州庵旁空地 特設テント
(捷運古亭站2號出口, 同安街底水源路旁)

票價 前売券 420元
※4月9日までに名前, 連絡先, 観覧日, 枚数を 電子メール(haibizi2006@yahoo.com.tw)
あるいはFAX(02-2356-8362)にて。
団体券 380元 10人以上
※直接電話(0930-780585)にて。
当日券 450元 座席に限りがあります
学割券 300元 高校生以下

台灣海筆子 http://blog.roodo.com/taiwanhaibizi
野戦の月海筆子 http://www.yasennotsuki.com/index.html

「変幻痂殻(かさぶた)城」
~4月13日から20日台北市同安街テント  文:櫻井大造

 台湾人と日本人の合作で開始された「海筆子」の活動は今年で5年目に入る。日本においては「野戦之月海筆子」の呼称で行われている。

 2002年東京において「阿Qゲノム」、03年には「阿Qクロニクル・罠と虜」がテントで公演された。05年は台北において、海筆子が企画し、台湾のさまざまな領域からの参加者によるテント公演「台湾Faust」が実現した。同年、日本東北地方においては野外劇「最上の夜」を公演。そして、昨年06年には新荘市楽生療養院中山堂と国家戯劇院にて「野草天堂・SCREENMEMORY」を公演。国家戯劇院での公演には多数の楽生院療養者が観客として参加してくれた。東京では、テント公演「野草天堂・海峡と毒薬」。これは台湾の「野草天堂・SCREENMEMORY」と対をなす公演である。他に、ここ数年、楽生療養院大樹下行動を共同企画し参加してきた。

 今年、「海筆子」は4月の台北公演の後に、9月北京公演を行う。6月に東京で公演される予定の「野戦之月海筆子」の作品と二作品同時公演である。北京の中心部における初のテント公演が実現する予定だ。北京公演は、北京の人々の個人参加による実行委員会によって用意されている。この2年間、関係を培ったきたいろいろな立場にある人々である。

 台湾の「海筆子」、日本の「野戦之月海筆子」はこれまで、両国政府・市行政の協賛・関与を受けず、企業などの支援ともまったく無縁な形式で公演してきた。もちろん、それは私たちが国家幻想や市場原理から自由な位置にあるということを意味しない。どのような権威にも護られず、既存の公共性・経済原理と無縁にいようとすれば、むしろ国家や市場との摩擦はより激しい。たえず国家幻想や市場原理の「内部」にいることを激しく思い知らされるのだ。だが、テント劇場を開こうとするのは、そのような摩擦の中にあるむき出しでリアルな時間を私たちの「表現」の居場所にするためだ。その場所=時間で起こる「表現」は、日常よりももっと現実であり、夢よりももっと希望であるような「反世界」だ。この「反世界」を保障するのは、ただただ、参集する観客と演員・工作者たちとの虚心な合作の力である。それは作品を製作/鑑賞するという関係であるよりは、そこで「ある出来事=反世界」を起こそうとする意志/行動を分有することに他ならない。

 北京公演もまた、そのような私たち固有のスタイルと北京の人々との合作において公演されようとしている。

 「変幻痂殻城」は、大都市の「痂殻」をテーマとしている。近年、東アジアの大都市はジェントリフィケーションとスラム化が同時進行しているように思われる。どちらも土地と住民の上に覆い被さる「新しい痂殻」である。市場原理に領導されるジェントリフィケーションは、都市住民の貧困を徹底追放し、人間の暮らしを消去した富裕幻想の街を造る。だが、富裕であろうとなかろうと幻想は再生産できない。だから傷つけられ抉られた土地から分泌する土地の血脈は、そのまま凝固するほかなく、「新しい痂殻」を作るだけだ。一方、ジェントリフィケーションに追放された貧困は、行き場を失う。そして結局、近代国家が製造した「古い痂殻」=「貧困の領土」に吹き溜まり折り重なる。克服に向けられていた「貧困」に、新参の「貧困」が倍加されるのだ。そのあまりの重力に「貧困の領土」は地盤沈下する。スラム化だ。スラム化の中で、生への欲望(貧困の克服=表現)は、めり込むように沈黙するだろう。そこでは絶望だけが分泌され、その凹みの中に「新しい痂殻」ができるだろう。これは「貧困の領土」のブラックホール化であり、「貧困の脱領土化」である。貧困を克服=表現しようとする意志が場所ごと奪われるのだ。

 このテント劇場に登場する「痂殻城」の住民たちはこの凹みからどのように脱出するだろうか。日本の田舎の伝説によれば、かつての大飢饉の最中、外に逃げ場を失った農民は、自らの身体を鳥や獣、老松や小さな沼という変幻(魔物)に変えて凹みから抜け出たという。自分自身の内部にそのような鋳型を発見・発明し、その鋳型に身を溶かしたのだ。それは絶望的な伝説だが、痛快でもあり、人々が手放さなかった「生への欲望」をよく伝えている。この変幻は、カフカの主人公のような反近代的変身と不協和音で響きあっている。

 現在、「痂殻城」の住民たちに残されているのはたった一つの貧しい身体と、なけなしの「生への欲望」だけである。だがそれだけあれば十分なのだ。痛快な変幻(魔物)と成り果て「痂殻」を内側から喰らうことになるからだ。

 日常よりももっと現実であり、夢よりももっと希望であるような「反世界」へようこそ!


登場人物

多数 (想像遊撃兵) 林欣怡
傷痕 (変幻天使) 陳恵善
独角仙 (冬的義勇兵) 段恵民
妖蛾 (悪霊王妃) 李薇
水筆子 (線上詠唱) 許雅紅
添丁 (便當義賊) 朱正明
未生 (水槽的海牛) 秦Kanoko
天鼠 (従前的海馬) 林干竝
土蜘蛛 (沈黙之刺客) 黄俊華
痂殻 (終皇帝) 櫻井大造