ヤポニア歌仔戯(オペレッタ) 阿Q転生

作/演出 桜井大造
東京 井の頭公園西園 特設テント
2008 11/1「土」2「日」3「月」6「木」7「金」8「土」9「日」

井の頭公園西園 特設テント
—井の頭公園野外劇フェスタ2008

演員:阿久津陽子 伊井嗣晴 瓜 啓史 太田なおり 阿花女 桜井大造 志衣めぐみ 崔真碩 つくしのりこ ばらちづこ 森 美音子 山田博達 リュウセイオー龍 渡辺 薫
総指揮:根岸良一
舞台監督:村重勇史
照明:2PAC
音効:新井輝久
舞台美術:長友裕子 中山幸雄
舞台:永田修平 田口清隆 遠藤弘貴 松尾容子
設計:宮本泰成
衣装:おかめ つくしのりこ 田口ナヲ
翻訳:胡冬竹
通信:濱村篤 水野慶子
制作:押切珠喜 金(門構えに言)愛 高橋 梓 張理香 板橋裕志
協働単位:台湾海筆子 北京テント小組 広島アビエルト
音楽:野戦の月楽団 原田依幸
版画:黄栄燦 1945年作 横地剛「南天之虹」より
題字:長友裕子
写真:陳又維
宣伝美術:村重勇史
印刷:制作室クラーロ
★協力:独火星 「山谷」制作上映委員会 竹内好研究会 国立木乃久兵衛 台湾辛苦之王出版社

 チベット仏教の「活仏転生」は、ダライ・ラマやパンチェン・ラマをはじめとするチベット社会の高僧たちが、死後49日以内に生まれ変わるというものだ。この「転生」は、そのままチベット社会の支配権力の問題であるから、その認定を巡っては熾烈な闘いが必須となる。二人のパンチェン・ラマ騒動や、昨年中国政府が発布した<政府の承認なしには転生は許可されない>という条例、対する亡命中のダライ・ラマ14世の「転生拒否」発言などがそれだ。
 最上層に君臨するチベット高僧の「転生」問題はともかくも、この芝居はそういった支配者間の過剰政治によって直截に生死を奪われる最下層の阿Qたち、その「転生」をめぐるものになる。
 とはいっても、最下層の人間に「転生」などあろうか? いったいだれが処刑にふされた孤独な魂の転生先など探すだろうか。いや、万一だれかが捜索したところで、しかるべき権威によって認定されなければ「転生」は果たされないのだ。
 魯迅老師が推量した阿Qの最期を、さらに邪推すればおおむね以下のようなものだろう。
  ―― 彼を取り囲む目玉は、すでに彼の言葉を食い尽くし、彼の肉体をかみ砕いた上に、まだ執拗に彼に食らいついてくる。ついにそれらの目玉は一つに繋がっ て、彼の魂を咬みはじめる。「救命!」と声を出すかわりに、彼の全身全霊はその目玉ともども木っ端微塵に飛び散った。

 この最期は、近年私らになんらか関わりのある近隣地域に起こった数多くの「虐殺」の模様でもある。東京、南京、中国全域、朝鮮、台湾、沖縄—私らが「虐殺」された先達を持つのか「虐殺」した先達を持つのかを問わず、あるいは、咬まれた魂なのか咬んだ側の目玉なのかによらず、魂と目玉が咬みあったまま木っ端微塵に飛散したその現場から、私らが発祥あるいは転生したことは間違いないと思われる。ただそれを捜索し現前化させる力量も、それを認定しようとする勇気も持ち合わせていないだけだ。そうであればこそ、「虐殺」はささいな姿となっていくどとなく反復され、可視化できないほどに常態となっている。

 タイトルにある「歌仔戯」とは、台湾の俗謡で構成された大衆向け歌劇のことである。日帝統治下にこの名称で呼ばれるようになった。